↑先週行った日本人に対する講義の二日目、韓国人と結婚した日本人婦人に対する講義。
私はふだん基本的には韓国で韓国の人に対して講義することが多く、大学や各地の自治体では韓国語で、企業の研修では主に日本語で韓国人にお話します。あとはときどき、日本から来られた観光客や研修生、あるいは韓国に住む日本の方々を集めて日本語で講義するということもありますが、今週は珍しく、日本の方々を相手に講義をすることが2日続きました。
1日目は日本から来られたある自動車メーカーの社員研修生にホテルの会場で話し、翌日はソウルのある自治体で、在韓の、韓国人と国際結婚をして暮らしている日本人婦人の方々にお話ししました。両方々とも真剣に聞いてくださってありがたかったのですが、その反応、というか講義後の質問がとっても対照的だったので、ちょっとご紹介しようかなあと思います。
●驚くべき日本の職業人精神!
会社の海外研修でお話ししたほうは、研修ということもあって、皆とても礼儀正しく、最初と最後に立ち上がって大きな声でご挨拶もしましたし、講義中もビシッと座って真剣にメモを取りながら聞いてくださり、講義後にも積極的に質問をくださいました。でも、そこで驚いたのが、みんな異口同音に「韓国の自動車事情」について質問されたことでした。
韓国観光でもあるし、主催側の講義内容の要請も、「日韓の文化の違い」だったので、私としては、世界的に「韓流ブーム」がなぜ起こっているかを冒頭のつかみとしながら、日本人と韓国人の文化の違いから来る心の構造の違いを話し、今回の日程が単なる観光ではなく、これを通して韓国人の内面をも理解して行けるように、という観点のお話をしました。
ところが、質疑応答となって出てきたのは、「韓国の自動車所有率は?」、「どうして韓国では軽自動車が少ないのか?」など、100%自動車に関するもの。「さすが自動車マン!」と驚きながら日本人の職業人精神に改めて感動してしまいました。最後の質問者が、一番若そうな女性社員の方だったので、今度こそ食べ物とか韓流についてかなあと思ったら、「韓国の車はどうして黒と白と灰色ばかりで、カラフルな色がないのでしょうか?」でしたからね…。
もちろんそれらに関しては、皆、文化の違いとしてちゃんと解説しました。
韓国人は、「ウリ(私たち)」という自分を中心とした同心円の中で〈主体意識〉を持つため、自動車は何よりもステータスシンボルであって、軽自動車に乗ることを皆、「恥ずかしいこと」と考えるし、事実、韓国社会では車が大型だったり、高級であることに社会的「意味」が生じる。色が黒や白が多いのもそのような「重さ」の表現であって、カラフルな色は軽く見えてしまうために避ける傾向にある。それに比べると、日本人は、「みんな」という社会の大きな和の前に〈受身意識〉を持つため、経済的合理性だけでなく、社会の一員として謙虚さを表す軽自動車が好まれるし、他人に迷惑をかけずに社会に貢献できる「エコ自動車」などが流行ることになる、ということを説明しました。
●「二重言語家族の環境造成を!」
さて、同じ日本人相手でも、翌日は打って変わって、「多文化家族支援センター」の主催により、ソウルのある区の区民会館セミナー室に、ソウル各地から在韓日本人のお母さん50人あまりが集まりました。壁には「二重言語の家族環境の造成を!」という標語が書かれていましたが、韓国では国際結婚家庭への公的支援がとても充実していて、その一環として企画されたわけですよね。
お母さん方ですから、開始前のにぎやかなおしゃべりと、講義中にも子供たちが玩具を落としたり、泣き叫んだりする、ほほえましい雰囲気の中で、私も本当に楽しく講義ができました。
みんな日々の生活の中で、両国の文化の違いを今まさに闘い、その葛藤を解決しようと集まっていらっしゃることが、終始、反応のよさに現れていましたし、ご質問も皆、韓国人の夫と姑との関係の持ち方、韓国での子育ての仕方に関するものがほとんどでした。私自身の夫婦関係や子育てに関する率直なご質問もいくつかありました。
ところで、食事をしながらの延長の質疑応答の時間に参加者の出身地をうかがって驚いたのは、圧倒的に大阪はじめ関西出身が多く、あと目立ったのが、私と同じ北海道出身の方も多いということでした。これは私の意見としては、それらの地域の県民性が、韓国のそれと近いからなのではないか、と思います。我が故郷・北海道人の豪快さやおおらかさもそうですが、特に大阪の方は、はっきりいって「ノリ」が韓国人のそれとよく似ています。関西弁も、韓国語と同じ“裏リズム”なので、韓国語らしい韓国語を話すのに適していますよね。
事実、質疑応答を聞いても、ご本人たちも、思いなしか、よい意味で韓国人っぽい方が多かった気がします。もちろん皆、自ら願ってわざわざ韓国に嫁いでこられているわけですから、韓国に合う文化性向に加えて、主体性も積極性もあるわけで、それらが韓国人気質に似ている面もあるかもしれません。
●日韓の両親の板ばさみの中で
その中でも私が何より感動したのが、質問される方の日本のほうのご両親も、「なんか韓国の人みたい!」という感じだったということです。
講義の中で、日本で贈り物の定番である「和菓子」は、それ自体、韓国にはない日本独自の贈り物文化であり、韓国ではお菓子が「子供が食べる粗末なもの」という基本的イメージがあるがゆえに、日本文化がよく分からない韓国人には嫌がられる可能性もある、という話をしました。
それに対する質問で、「私の日本の父は、韓国の義父母に地元の有名なお菓子を贈るんだと自信満々なのですが、『韓国ではお菓子が嫌がられる』といってもまったく聞こうとしないんです。実際、韓国では、日本から何度も持ってくるうちに、怒って投げられたこともあったので、『韓国の文化では、特に嫁ぎ先への贈り物として、それは駄目なんだ』と何度もいうけれど、『こんなに美味しいのに絶対喜んでくれるはずだ』と、まったく聞く耳を持たないのですが、どうしたらいいのでしょうか」ということでした。
私が感動したのはその日本のお父さんです。まさにそのように情が厚く、与えることに絶対的に自信満々で、聞く耳を持たない、というのは、お父さん、まったく韓国人みたいです。個人的には本当にいいお父さんです。でも間にはさまってご本人がたいへんだというわけですが…。
さらに、「日本の父は人を家に泊めるのも大好きで、韓国の義父母をぜひ呼んで泊まってもらうんだ、と大張り切りなのですが、日本の家は韓国人には耐えられないくらいに寒くて、実際、夫が泊まった時に『寒くて朝まで眠れなかった』といっていたんです。でもそれを父に話しても、『ちゃんと何倍も布団を厚くしたし、部屋をのぞいた時はちゃんといびきが聞こえたぞ』というんです。『韓国ではオンドルというものがあって、冬でも韓国人は半そでシャツ一枚で過ごすし、空気自体が暖かい中で薄い布団一枚で寝るんだから』と、何度説明しても理解してくれません。このままだと、義父母が泊まった後で間違いなく『こんな寒い部屋で寝かされたんだ』と後々まで語り草になって私の立場ばかり悪くなるのに、いったいどうしたらいいのでしょう」という質問でした。
「それは分かってくれるまで何度も説明し続けるしかないし、韓国に呼んで実際に文化の違いを経験させるしかありません」と答えましたが、私個人としては、そんなステキなお父さんのいる、すばらしい家庭に育ったということがうらやましいばかりでした。一言でいって、そういうご両親なら間違いなく韓国のご両親とも意気投合して、互いに深い所で分かり合うことができるので、まったく問題ないなあと思いました。
ということで、今回の集まりの結論としては、「ぜひ、韓国の親と日本の親にも同じ講義をしてください」ということになり、主催の「多文化家族支援センター」にそれを依頼するという形で終わりました。もしそちらのお手伝いもできたら、私も本当に嬉しいですよね。
外国人の定着を助けるため、「二重言語の家族環境の造成を!」とスローガンが掛かってます。
ふだんはここで韓国語を教えてくれたりするわけですが、私もここで文化の違いを講義します。
「健康家庭多文化家族支援センター」と書かれています。
韓国では地域の自治体ごと、どこもこのような体制で地域に住む外国人家庭を支援してくれてます。
武藤克精
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