日韓文化コラム

韓国の田舎町で語ったアジアの未来

舒川(ソチョン)の埠頭

舒川(ソチョン)の埠頭

●豊かな海辺の舒川(ソチョン)

韓国の南西、忠清南道の海辺の町、舒川(ソチョン)の郡民会館に講義に行って来た。「舒川文化学堂」という、郡長をはじめ郡議員、公務員らが参加する郡庁主催の教育プログラムで、200名くらいが私の話を聴いてくれた。

郡長さんは、何でも「郡の未来を懸けた工団誘致のための10日間の断食闘争」を終えたばかりで、一番前でメモを取りながら聴いてくださった。もう一つ嬉しかったのは、日本人が講演するということで駆けつけてくれた現地在住の日本人の方々が、講演後に花束と、自宅でつくったという海苔などを持ってきてくださったことだった。

私がなぜ呼ばれたのかと思っていたら、郡庁の男性職員の一人が、以前、ソウル近郊の富川市の役所にいたそうで、公務員教育で私の講義を聴いていたという。それで、私を熱心に推してくれ、数ヵ月もスケジュールが詰まっているところを、わざわざ予定変更して入れてくれたのだ。

講義の後で、現地の海の幸をご馳走になりながら、詳しくうかがってみると、なんとこの人、富川市から、自ら望んでこの舒川郡庁に交換人事で来たらしい。富川市といえば、今まさに発展する首都圏の先進都市である。一方のここ舒川は、毎月多くの住民が都市に抜けてしまうという、過疎化に悩む農漁村。ふつうなら理解に苦しむ選択だ。

この方が聴いた私の講義の結論は、日本の「理性」優先の文化に対する、韓国の「愛と情」優先の文化の可能性。特に近代における、合理主義ではない、もう一つの普遍価値であるキリスト教ヒューマニズムの、アジアにおける可能性示唆で終わっている。この方がいうには、「私がこの人事を願った理由こそ、まさにその〈愛〉を求めたから」なのだという。

韓国における都市部への異常な人口集中と学歴競争。しかし、豊かな原生の自然をたたえる地方で、「愛と情」を中心とした生活を享受できなければ、韓国の未来に本当の幸福はない。そう考えて、地方環境の改善に取り組むことを願ったのだという。

私も、とぼしい知識を総動員して、日本の地方自治体の地方活性化への取り組みと成果、昔のように都市志向ではなくなった現在の日本人の変化などについて話した。「とても希望を感じた」といって目を輝かせてくれた、その真摯な姿勢に、こちらが頭が下がる思いだった。

●今またアジアに渡されるべき橋

韓国は、仏教→儒教→キリスト教と、世界の高等宗教がそれぞれに純粋に結実したアジアの「義の国」である。中国と日本がそれらに背を向ける中で、唯一、大韓帝国を建てた「高宗」が目指した近代化だけが、西洋が結実させた宗教的近代精神を、信義と愛による人道主義として受け入れようとしていた。西洋のキリスト教と、朝鮮の朱子学儒教の「義」の精神の出会いである。

もちろん、当時、大国に挟まれた弱小国家であったがゆえに、ただ誠実による善隣外交しか未来を開くものとなり得ないという判断あってのことだが、その方向性こそが、その後の時代の、最も先進的な国際法精神ともなることを考えれば、そこには決して見過ごせないアジアのもう一つの近代化の「可能性」があった。

残念ながらその「可能性」は、その後の日本の、「力と理性」による近代化によって塗りつぶされてしまうのだが、しかし、今また行く道を失いつつある日本と、さらに恐ろしい暴走を始めかねない中国の間にあって、今こそ、それが、アジアにもう一つの希望の橋を渡すべきではないか、という所まで話は及んだ。

いつの間にか、韓国の小さな田舎町でアジアの未来を語り合っていた。「今日はとてもいい話を聞くことができた」といってくださった彼に背を向け、輝くように美しい海辺の町に別れを告げた。

夕暮れの舒川の海夕暮れの舒川の海

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武藤克精

日韓比較文化学専門家/ 文化交流コーディネーター/ 日韓未来ハートタンク代表/ サムスン人力開発院講師/ 『サランヘヨ・ハングンマル』編集長

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