韓国論考

この一冊に「東アジア共生」への新しい希望の光が

東大生に語った韓国史

●韓国近代史に衝撃的な一冊!

もう3年も前になりますが、このソウル大の李泰鎮(イ・テジン)教授の著作『東大生に語った韓国史』(明石書店)を読みました。これはすごい本であり、既存の研究によって少しでも韓国の近代史を勉強したことがある者にとっては、まさに衝撃的な一冊でした。

長い間、韓国史という学問は、日本統治時代に日本の学者たちが研究した資料の基礎の上に成り立っていました。

すなわち、日本が韓国を併合した1910年からの最初の統治手段が、警察や憲兵の「力」による「武力統治」であったとしたら、1919年に老若男女、あらゆる階層、あらゆる思想と信条を持つ韓国人が大挙して参加した3・1独立運動の勃発によって、日本は統治方法を大きく変更し、民族の精神にまで影響を及ぼす「文化統治」へと方向転換していきます。

その中でも、何よりもその民族の矜持を曲げるために行ったのが、韓国併合が必然であったという歴史観(植民地史観)を植えつけるための歴史教育であったわけです。日本は1921年、朝鮮総督府の中に、朝鮮総督府政務総監を委員長とする「朝鮮史編纂委員会」を設立し、その後、1925年には朝鮮総督直轄の機関として「朝鮮史編修会」を発足させます。

何よりもその中心は「日鮮同祖論」であり、古来日本の天皇こそが半島の支配者で、韓国民族はその分家であるため、再びその下に戻るのが必然であり、韓国語は日本語の一分派であるため、本家の日本語を話すべきであるとするなど、韓国の歴史を日本の皇国史観に組み込むための研究がなされることで、既存の韓国の歴史資料からそれにふさわしいものだけが残されて、膨大で緻密な研究が積み重ねられていったわけです。

すなわち、いくら日本のその主張に反発しようと、韓国の歴史を研究する者たちは、「朝鮮史編修会」が残した、それら膨大な資料を基礎資料とせざるを得ません。当時から、日本の歴史学者が韓国の歴史学者を育て、その韓国の歴史学者が韓国の歴史学者を育ててきたからです。36年間の支配の期間の中で、すでに2段階目にしてそれは「韓国人学者の教え」となってしまっているからです。

●韓国史はよちよち歩きの若い学問

そのため、多くの歴史を志す韓国人学徒たちは、日本の支配がいかに不当なもので、韓国民族の歴史がいかに優秀なものであるかを研究しようと、意気揚々と史学の門をくぐっても、積み上げられた研究結果に接すれば接するほど、かつては思いもかけなかったような言葉を口にするようになるわけです。

「日本による支配は不当であるが、当時の韓国の指導者が愚かであったため、そうならざるを得なかったのだ」、「植民地支配は間違っていたが、一方で、日本による近代化の恩恵もまた否定できない」

しかし、頭ではいくらそう結論付けようと、心では納得の行かない分裂状況を感じているのです。それは日本がその時代に韓国でなした研究、特にすぐ前の時代である朝鮮時代と大韓帝国時代に関する研究は、そのすぐ後に来る日本植民地統治を正当化する目的を持ってなされたし、事実、そうするのが当然の状況であったということを知り、すべてを否定して、まっさらになってそこから出てくる、ということがなければ解けることはないでしょう。

韓国史という学問が、実はたかだか60年の、実に若い、やっとよちよち歩きを始めたばかり新しい学問であらざるを得ない理由がそこにあります。そして、この韓国歴史学界の重鎮、李泰鎮・ソウル大教授の筆致が、本の全編にわたって、思いもかけずとても若々しく麗しい理由もそこにあります。

私たちがもう一度、その「真実」に対する誠実さをもって、心の「若さ」を取り戻すこと。それこそが、私たちから始まる新しい「東アジア共生」への希望の光であるということを信じて、李泰鎮教授が、まっさらな白紙から再び独自に検証ようとした、驚くべき研究成果に、すべての日本人、韓国人がぜひ一度出会っていただきたいと願ってやみません。

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武藤克精

日韓比較文化学専門家/ 文化交流コーディネーター/ 日韓未来ハートタンク代表/ サムスン人力開発院講師/ 『サランヘヨ・ハングンマル』編集長

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