活動紹介

なぜ、日本人は物乞いをせず、韓国人はするのか?

文化というものが考えに作用する構造を説明しています

先週行った、韓国在住の日本婦人の方々に対する講義の感想文が届いたので、ご紹介しようかと思います。今回も、「健康家庭・多文化家族支援センター」主催の「韓国定着のための移住女性教育」における講義ですね。

お一方、日本語が聞き取れるという韓国人の旦那さんを連れて来られたご婦人がいらしたのですが、実はこの旦那さんが一番反応がよかったんですよね。日本婦人たちが静かに聴いている時にも、一人でクックックッと頑張って笑いを抑えている姿を何度か見ましたが、かなり笑いのツボに入っていたようですね。

ということで、この日、質疑応答で受けたいくつかの質問の中から一つだけご紹介しようかと思います。それが、「①日本では道端で物乞いをする人を見かけることがないが、韓国ではけっこうそういう人がいるのはどうしてか。②韓国人はそういう人がいても平気なようで、私が驚いて見ていると、『そんなふうにじろじろ見てはいけない』といわれる。これはどう考えたらいいのか?」というものですね。

●公然と被害を訴えることが恥とされる日本

まず、①に対する私なりの回答は、それはむしろそういう人が道端にいない日本のほうが特殊なのだということです。他国の場合、主には仏教やキリスト教などの宗教的観点もあって、困難を訴えることや、施しをすることはよいこととして奨励されるので、むしろいるほうがふつうです。

特に韓国では、文化的に基本が「人間=家族」なので、困難を訴えて同情を得ることは当然のことになります。たとえばニュースなどでも、韓国では、事故で家族を亡くした人などが、オイオイ泣き叫びながら、カメラに自らの被害を訴えるという姿がふつうに見られますが、それは見る人皆が「家族」として同情してくれることが分かっているからです。

いっぽうの日本では、そういう公共の場で私的感情をさらすということは、とても恥ずかしい姿としてタブー視されてしまいますし、基本、被害者が公然と被害を訴えること自体が「恥」とされがちです。すなわち、ことほどさように、「人間=他人様」の日本人にとって、「人様に迷惑を掛ける」ということが一番よくないので、物乞いのように、自分の私的で困難な事情を公然と訴える姿は、良識に欠ける恥ずかしいこととなり、たとえホームレスになろうとも、そんなことはとうていできないと考えるわけです。

●「見られる」ほうの日本、「見る」ほうの韓国

さらにその「恥」の観念の構造にも通じるのですが、②については、日本では、「物乞いを見るととても気まずい思いになる」というこの状況で、「見られる」ことで人をそういう思いにさせることがよくないこととされます。「見る」ほうの責任ではなく、「見られる」ほうに責任があると考えるわけです。いっぽう、そのような場合、韓国では逆に「見る」ほうに責任があると考えるので、気まずい行為である「見る」行為のほうを控えるべきだとされるわけです。

これはまさに、韓国人の「主体意識」と日本人の「受身意識」の違いということになります。多くの韓国人は、日本旅行をすると、日本の家々がみんな窓に白いカーテンをしていることに驚くのですが、日本ではカーテンを開け放して人に家の中を「見られる」ほうが悪いことになるので、皆気をつけるわけです。韓国では、「見る」ほうが悪いと考えるので、別にそういう所に誰も気を遣わないわけですよね。以上、長くなりましたが、あくまで私がいつも話している講義の観点による解説でした。

■感想 =====================================

・とても分かりやすく説明してくださり、韓国のことだけでなく、日本のことについてもより理解が深まりました。結婚してから、文化の違いや考え方の違いでモヤモヤしていたことも納得がいく部分が多く、とてもためになりました!次回も楽しみにしています。

・今回初めて最後まで講義を聞くことができました。分かって来ていた気がしていましたが、今回の講義を聞いて「分かった気」ではなく、しっかり、お互いの文化や考え方を分かることができました。韓国の両親や旦那にもですが、日本の家族にも聞かせたいと思えた素敵な講義でした。ありがとうございました。

・今回も分かりやすく説明してくださり、韓国について「なるほど!」となる所がたくさんでした!隣の国ですが、やはり文化の違いはたくさんあるので、これからもいろいろ知っていけたらいいなと思いました。また、自分の中でどうしても韓国を見る時に日本と比べてしまいがちでしたが、それもよくないのかな…と反省しました!次回もぜひ講義に参加できればと思います。

・今までずっとモヤモヤして、ストレスを感じていたことも、今回講義を受けてすっきりしました。近い国であり、見た目も大きく変わらないアジア人だから、と日本の常識に当てはめて考えてしまっていたんだなあと感じました。もっといろいろなお話を聞いてみたいので、今後も講義がある時はぜひ参加させていただきたいです!

・夜勤明けの主人をセンターに呼び、一緒に講義を受けました。先生の講義が韓国側に寄せ気味だったので、主人はそれから今日までずっと上機嫌です。ありがとうございました。

・今まで韓国に対して感じてきた違和感が理解に変わる、とてもよい機会でした。韓国に対する「どうして」、「なんで」という気持ちに夫は同調してくれることが多いのですが、その説明がうまくできず、夫もモヤモヤしていたと思います。9月は週末に講義してくださるとのことで、ぜひ夫に参加してもらいたいと思います。別のテーマでもまた講義を受けたいです。

韓国の旦那さんが参加。日本語ばっちりです。いつものように子連れのお母さんも

最初の比較は秩序意識の違い。

主体意識と受身意識の違いの説明。韓服と着物の美の違いなども参考に。

講義後の質疑応答で質問に答えています。

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武藤克精

日韓比較文化学専門家/ 文化交流コーディネーター/ 日韓未来ハートタンク代表/ サムスン人力開発院講師/ 『サランヘヨ・ハングンマル』編集長

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